シネマ薬師座-必ず1つは褒める映画感想

古今東西、様々な映画感想を書いています。

映画「ロブスター」は謎の婚活風刺劇!

ヨルゴス・ランティモス監督によるかなり特殊な設定と舞台によるブラック・コメディ。
生き抜く為に婚活に励む姿や運営がキモいけど面白いです。
7/10点★★★★★★★

f:id:cando_movie:20210710173240j:plain
あらすじ

独身者であれば身柄を確保され、とあるホテルへと送られる世界。そこでパートナーを45日以内に見つけなければ、自身が選んだ動物に姿を変えられて森に放たれてしまう。そのホテルにシングルになったデヴィッド(コリン・ファレル)が送られ、パートナー探しを強いられることに。期限となる45日目が迫る中、彼はホテルに充満する狂気に耐え切れず独身者たちが潜んでいる森へと逃げ込む。そこで心を奪われる相手に出会って恋に落ちるが、それは独身者たちが暮らす森ではタブーだった。

 

youtu.be

スタッフ・キャスト

監督・脚本・製作

 

 

【ロブスター THE LOBSTER 2015年 アメリカ】

独身は動物に変えられてしまう特殊なルール、それを阻止する為に伴侶を見つけようとする婚活模様という独特の世界観を持った作品…と聞くと意味不明な映画に思えますが割と観やすかったです。
【ここが良かった!】
ついつい引き込まれてしまう不思議な雰囲気が良いですね。

まず動物になるという点ですが、これは(直接的描写はないですが)恐らく改造手術的なものを受ける様です。変換部屋の扉までが出てくるのですが、あえて中を見せないのがちょっと怖かったです。

また、隔離されたホテルと無表情で坦々としたスタッフ達が程よく不気味でした。参加者達はそこでカップルはこんなにいい事あるよ劇場を見せられたり、メイドによるチ○コをお尻でグリグリサービス(寸止め)を受けたり、普通にダンスやお食事をしつつ、伴侶を探します。

しかし厳しいルールもあり、オナニー禁止令を破ってしまうとトースターで右手を焼かれてしまいます。食堂でその制裁があるのですが、周りが特に気にしてないのが実に気持ち悪かったですね。

しかし結構笑っちゃうようなシーンも多く、主人公のデヴィッドがガッツリとアプローチしてくるオバチャンをスルーする場面やデヴィッド達がとりあえず身近な男3人で集まって作戦会議する所はお見合いバラエティみたいで可愛かったです。

さてこの映画、もう一つ面白い点は実際の婚活や恋愛事情を皮肉ってる様なシーンが多くあったところです。

実は「一生独身でいたい!」という人間がホテルから逃げ出して森に住んでいるという設定があります。ホテルにいる参加者にはその独身者を狩りに行くイベントがあるのです。しかも1人狩る毎に滞在可能日数が1日増える特典付き。なので必死なる奴が多いのですが、そんな事する前にもっと異性にアプローチしろよと誰もが思うでしょう。
狩られる独身側も森の中で「恋愛禁止!セックス禁止!」と徒党を組んでいる訳です。

コイツらは夜中に参加者に反撃に行くこともあるんですが、やる事と言えば空砲を使って夫婦仲を裂こうとしたり「お前の彼氏、無理矢理お前さんに合わせてるだけなんやで」っと陰口を伝えに行くという陰湿極まりない攻撃を繰り広げます。そんなんだからモテねーんだよ。

この婚活恋愛主義者と独身主義者の不毛な戦い…何だろう、Twitterとかで見た事ある気がする。ここに既婚者が参加してないってのがまたリアルで笑えますね(笑えない)。

デヴィッドは何を思ったのかこの狩りが得意なサイコパス女にアプローチします。そして相手に合わせるようにサイコパスっぽく振る舞うのですがメッチャ無理してるのが笑えます。実際の婚活でもありそうですねーこういうの。

後半はホテルから抜け出して独身コミュに入ったデヴィッドが何だかんだレイチェル・ワイズと恋しちゃいます。美人だからね、仕方ないね。

ですがここは独身者の誓いの森。恋に生きようとする裏切り者は制裁の対象となるのだ!

果たして彼女は「私たち、ズッ友だよ!」の恐怖から逃れられるのか!?
・・・おい非モテ共、ええ加減にせーよ

と、なかなかハラハラさせてくれる訳ですが、この監督のいやらしい所はコレで終わらず、最後にはここまで楽しく観ていた恋愛脳の「恋の盲目さ」に対しても痛烈に皮肉ったラストを用意していますので期待していいと思います。

さてこの映画の気になる点ですが、それは利点にもなっている特殊すぎる舞台設定でしょうか。
ハッキリ言ってこの映画に「何で?」といい出すとキリが無くなります。
わざわざ動物にする理由がないし、その高度な医療技術は何処から来てんの?とか、警察が既婚者確認するくらいの法律の割には森にいる連中は野放しで侵入もザルだったり、そもそもどんな法律なんだよとか、ツッコミだしたら止まらないでしょう。

この映画はそういうもの、と割り切って見れない方は多分、全く楽しめない無理な作品だと思います。

非モテ達の無益な争いやバカップルの右往左往をゲラゲラ笑って見られるような、素直で余裕のある方にはオススメです。