シネマ薬師座-必ず1つは褒める映画感想

古今東西、様々な映画感想を書いています。

映画「パッション」はキリスト教徒へ向けた作品!

メル・ギブソン監督によるイエス・キリストがユダの裏切りにより捕縛され、処刑の後に復活するまでを描いた宗教映画。映像に関してはお見事ですが、内容自体は教徒向けです。
4/10点★★★★

f:id:cando_movie:20210710171802j:plain

あらすじ

紀元1世紀のエルサレム十二使徒の1人であるユダ(ルカ・リオネッロ)の裏切りによって大司祭カイアファ(マッティア・スブラージア)の兵に捕らえられたイエスジム・カヴィーゼル)は、救世主を主張する冒涜者として拷問され始める。 

パッション(2004)

スタッフ・キャスト

監督・脚本 メル・ギブソン

イエス・キリスト ジム・カヴィーゼル

マグダラのマリア モニカ・ベルッチ

【パッション THE PASSION OF THE CHRIST 2004年 アメリカ】

キリストの処刑をじっくり、たっぷりと時間をかけてリアルに観せる映画。鞭打ち、杭打ち等の拷問シーンが苛烈で、アメリカで上映中に心臓発作で亡くなった方が出たことも話題になった作品です。
【ここが良かった!】

映像は文句なしの迫力でした。まるで絵画から出てきたようなエルサレムの風景で、美術、ロケーションが素晴らしかったです。

問題のキリストが痛めつけられる場面ですが、ここもリアルな特殊効果にスローを混ぜたりして、まぁーこれでもかと見せつけてきます。一つ一つがとにかく長くてしつこいくらいです。ホントに。

杭打ちは何分もかけて描写し、出た杭を折り曲げて抜けないようにするカットまで入れ込んできます。
鞭打ちにしても無傷な肌を無くす勢いでやります。背中、足が終わるとゴロンと仰向けにして胸、お腹にも打つので「まだやるんかい…」ゲンナリすること間違いなし。

しかし色んな位置から撮ったりしてて(良いことなのかは置いといて)飽きさせないカメラワークなのは流石でしたね。

十字架を持って丘まで運ばさせられるシーンも延々と続きます。そこで何度も倒れながら起き上がります。あんなに血だらけで朦朧としてるのに。

いや、しかしこのキリスト強すぎる。

途中で市民が無理やり手伝わされるんですが、一緒に運ぶうちにキリストから何かを感じとる流れはとても良かったと思います。

この悲惨な映像を見せる事により、人間の醜悪さ(ゲラゲラ笑いながら痛めつける拷問人やキリストに暴行する群集)、苦難に耐え、全ての人間の罪の身代わりとなる事を決めたキリストの凄まじさを見事に表現していました。

さて、ではこの作品が劇映画として面白かったか?と問われた時、はっきりと私は面白くなかったと答えます。

それはこの映画が、観客側が全ての設定や出来事を分かっている前提で作られているからです。

状況の説明はほぼ無く、何やら密告された治癒の力を持つ男が磔の刑を宣告されて処刑されるだけです。

処刑されるにしても理由が示されるようなドラマが出てくる訳でもなく、最後の復活にしても何も知らない観客からしたら「はぁ?何で生き返ってんのこいつ?」ですよ。

この映画はキリストの生まれてからの物語を全て知っているからこそ、思い入れがあるからこそ、大きく感情が揺さぶられる事になるわけです。

そう、つまりキリスト教徒向けのファンムービーのようなものなのです。悪くいってしまうとクオリティの高い運動会のホームビデオです。親が見たら泣ける子供の頑張りも他人から見たら「知らねーよ」ってなりますよね。

普通の物語なら(たとえ聖書の話をテーマにしていたとしても)そうならない為にストーリーが存在する訳ですが、この映画はそれを削ぎ落として作っている為、聖書のお話を知らない人は門前払いになっています。

全ての観客に等しく謎を与える内容なら、あぁそこは観客に判断を委ねるのね…となるだけですが、この映画の場合は「キリストさんの話、当然知ってるよね?なら詳細は飛ばすよ」という作られ方なのが問題なんです。

いや、私だってキリストについて一般常識レベルの知識はあると思いますよ。だから話の理解は出来ます。でもね、ロンギヌスと聞けばエヴァヨハネと聞けば津島善子が出てくるような人間ですので、申し訳ないが大層な感情は湧きませんでした。

しっかり予習して観ろよと言われるかもしれませんが、私は映画単体で考える人なので、原作なりなんなりを知ってなきゃ観られない映画というのはダメだと判断します。(続編は別です。)

だからこの映画は出来の良いファンムービーだという事です。
はい、映像の出来が良いのは間違いないと思います。