映画「ミュージックボックス」は傑作裁判ドラマ!
社会派映画を多く手がけるコスタ=ガブラス監督による戦争犯罪裁判を描いた非常に完成度の高い映画。思わず唸らされる名作でした。
ベルリン国際映画祭 金熊賞受賞
9/10点★★★★★★★★★
あらすじ
弁護士として活躍するアンと彼女の父でありハンガリー移民のマイクの親子は40年来、幸せに暮らしていた。だがある日、公表された第2次大戦記録の中でマイクが戦争犯罪者として扱われているのを知る。マイクは人違いを主張し、汚名を晴らすべく娘とともに法廷に立つこととなるのだが・・・。
スタッフ・キャスト
監督:コスタ=ガブラス
脚本:ジョー・エスターハス
アン:ジェシカ・ラング
マイク:アーミン・ミューラー=スタール
【ミュージックボックス Music Box 1989年 アメリカ】
第二次世界大戦中にハンガリーで起こったユダヤ人への非人道的行為の疑いをかけられる移民の父とその弁護をする娘を中心とした法廷劇で、ショッキングな映像や過剰な演出を使わずに衝撃や緊張を伝える見事な作品です。
【ここが良かった!】
何といっても興奮したのは終盤の展開ですね。主人公が真相のヒントを見つけてから結末へと至るまでの緊張感が半端ないです。特に「ミュージックボックス」のタイトル回収されるシーンが素晴らしく、オルゴールの音が流れる中でじっくりと、しかし確実に真相に繋がる「アレ」が現れるシーンは心臓バクバクです。そして、ある事が判明し理解した主人公が苦しみ戸惑う様は、こちらまで胸が張り裂けそうになる名場面でした。
その後のクライマックスではとあるラスボスとの舌戦が待ち受けています。ここは何とも複雑な気持ちにさせられますが、大抵の人は「なんやこいつ…」ってなることでしょう。必見バトルです。
そして主人公はある決断を迫られ、それを封筒に託すのですが、宛名がすぐに見えないのでメッチャ焦らされます。どっち!?どっちにしたの!?ねぇ!と画面を覗きたくなるようなカメラワークが上手かったですね。
ラストは長回しでゆっくりと緊張が解される、最後まで素晴らしい画面作りでした。
勿論終盤だけでなく、物語の核となる中盤の裁判シーンも面白かったですよ。
戦犯裁判という難しい題材ですが、監督は知り合いの判事から実際の裁判記録の謄本などを入手し、それをヒントに作り上げたそうです。
なのでメチャクチャな逆転劇などのフィクション臭さが無く、淡々と進む抑えた演出でした。登場人物達も過度に決めつけたり語りすぎる事はないのが自然で良いです。
基本的に検察側は被害者を連れてきて「こんな酷い事されたんじゃ、この写真の男にやられたんじゃー」と言わせ、弁護側は「それ信頼性あります?」と推定無罪に持っていく為の粗探しという泥試合を繰り広げます。しかし実際、判事や弁護士も出来ることってこのくらいの手しかないんだろうなー。何十年も前の話だからね。
迫害を受けた被害者達が証人として話をする場面は静かながらも確かな怒りを感じる話し方で、自分が傍聴人になった気分になります。リアルでしたね。
内容が内容だけにギャーギャー騒いだり御涙頂戴狙ったりしない所にセンスを感じました。
それと序盤に評価点が一つ。この映画、話が早いんです。
というのも、オープニングクレジットのダンスパーティのシーンの時点で父娘の関係性や家族関係、職業などをスパッと説明します。
その後の父に会いに行くシークエンスでもう戦犯疑いの書類が届き、親子で説明を聞きに動きはじめます。
なんと分かりやすくて手っ取り早いか。
ものの10分でこの映画の目的を提示するというスピーディさ。アンが離婚してるだのといった他の点は必要な話の中で表していく為、物語に集中しやすいのです。
ダラダラと何十分も本筋に入らない映画は見習うべきでしょう。
さて、この映画は戦犯裁判が軸ですが、根底には家族関係という普遍的なものがあると思います。
戦犯扱いされてしまえば強制送還からの死刑が待ってる訳ですから、そりゃ本人は必死で無罪を主張するし、家族だって信じたいし、平和な日常に戻りたい、でも一筋縄ではいかない。そんな家族関係のドラマもこの作品の見どころでした。
その為、社会派映画ながらエンタメ性もあり非常に見やすいので是非ご覧になってほしいです。今回はちょっと褒めが多かったかもしれない。