シネマ薬師座-必ず1つは褒める映画感想

古今東西、様々な映画感想を書いています。

映画「薬の神じゃない!」は実話ベースの人情話!

ウェン・ムーイエ監督による上海で実際にあったジェネリック医薬品の密輸販売事件を元にした映画で、本国の中国では興行収入500億円の大ヒットを飛ばした作品です。

7/10点★★★★★★★

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あらすじ

上海で小さな薬屋を細々と営むチョン・ヨンは、店の家賃も払えず、妻にも見放され、人生の底辺をさまよっていた。ある日、血液のがんである慢性骨髄性白血病患者のリュ・ショウイーが店にやってきた。彼は国内で認可されている治療薬が非常に高価なため、安くて成分が同じインドのジェネリック薬を購入してほしいとチョンに持ちかけてきた。最初は申し出を断ったチョンだったが、金に目がくらみ、ジェネリック薬の密輸・販売に手を染めるようになる。そしてより多くの薬を仕入れるため、チョンは購入グループを結成する。白血病の娘を持つポールダンサー、中国語なまりの英語を操る牧師、力仕事が得意な不良少年などが加わり、密輸・販売事業はさらに拡大していくが……。

 

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スタッフ・キャスト

監督・脚本:ウェン・ムーイエ

チョン:シュー・ジェン

リュ:ワン・チュエンジュン

リウ:タン・ジュオ

ボン:チャン・ユー

リウ牧師:ヤン・シンミン

【薬の神じゃない! 我不是药神   2019年 中国】

私の職業柄(薬剤師)、気になっていた作品でした。
陸勇事件という薬価の安いインド製の後発品を密輸販売していた事件を題材にした映画ですが、おっかない実録犯罪モノではなく、白血病の患者達を巡る人情コメディですね。そこに中国の社会問題をスパイスされており見応えがありました。

【ここが良かった!】
この映画を良くしていた点は、筋書きが主人公チョンの成長物語となっていた所でしょう。
最初の頃のチョンは家賃も払えず前妻などにも暴力的なダメ男です。
密輸を始めて儲かり始めると今度は尊大さも出てきてしまいます。
それが患者達との関係を重ねるにつれて義憤に駆られるようになり、私財をも投げ打つ覚悟で薬を仕入れるようになっていくという構成で、ありがちですが良い話でした。

周囲の人達もキャラが個性的でした。中でも密輸を頼みながら闘病を続ける患者のリュ、不本意に巻き込まれながらも心を開いていく不良少年のボンが印象的でしたね。
その2人にポールダンサーのリウ、英語の出来る牧師さんが合わさって密輸コミュニティを形成していく流れがテンポ良く楽しく見られました。

しかしですね、この人達、あまりスマートではないんですね。密輸なんて危ない事してんのに普通に警察沙汰を起こすんですよ。んでもってこの警察も結構無能です。
おいおい、そこはもう少し慎重になってくれよ…と苦笑いが出ますが、まぁ秀才キャラ設定ではないのとコメディなのでギリ許せる範囲かな。

それとインド製の薬を使うという事で作品中には所々にインドでの風景、そしてインド風の音楽が使われていたのも個性的でした。チョンが悩んだ時にインドの神々の像が通り過ぎる演出が良かったです。

同じタイプの映画で「ダラス・バイヤーズ・クラブ」を思い出しますね。あちらはエイズの薬で本人が患者という事で、どちらかと言えば人間の生命力を感じる作品だったので、うまく差別化されていたんじゃないかなと思います。

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実際の陸勇事件では本人が慢性骨髄性白血病患者でだったようで、実話の方がダラスバイヤーズクラブに近いのかな。

さて、物語の軸である非承認薬の密輸ですが、これは医療従事者的に複雑な気持ちになりました。
治療効果やほぼ出るであろう消化器症状、体液貯留などの副作用と対処のモニタリングはすべきだよなぁと。適切な薬学管理が出来ないのはちょっとなぁと。そもそも今回は本物のだったけど、実は中身は小麦粉の粗悪な偽物の可能性だって大いにある訳で怖いですよね。
しかしそんな考えになるのは多分、誰もが安全な薬物治療を健康保険による高額療養費制度で受けられる日本にいるからでしょうか。

慢性骨髄性白血病CML)との事なので今回の薬は恐らくイマチニブ。スイス製の先発品なのでノバルティスのグリベックでしょう。グリベックは現在の日本の薬価で100mg錠が1錠あたり2090.5円。CMLの治療は1日400mg必要なので1日4錠で8362円。もし自費なら1ヶ月に25万円かかります。

現在の上海の平均月収は13万円だそうです。劇中では1瓶4万元でしたから数十万円かかるわけで、そうそう自費で払える金額ではありませんね。これが20分の1の値段で買えると言われればそりゃ藁にもすがる思いで買いますよね。同じ境遇なら間違いなく私も買います。
何とも複雑なモラルを問われたような気分でした。